【大学生の君へ—外国の古典文学、何を読もう?】おすすめ海外文学BEST10

先日、お客様のお宅で打ち合わせをしていたとき、帰り際に大学生の息子さんから意外な質問をいただきました。

大学生A君

外国の古典文学に興味があるんですが、おすすめの本を教えてください



えっ?てっきりインテリアや建築に関する質問がくると思っていたので、心の中で「インテリアの質問じゃないんかーーーい!」とひとりツッコミをしてしまいました(笑)。でも、せっかく文学に興味を持って質問してくれたので、私なりにおすすめの古典文学を集めてみようと思います。

とはいえ、私も日本文学科出身といいつつもそんなに海外文学に詳しいわけではありません。正直に言うと、シェイクスピアはまだ1冊も読んでいないし、トルストイの『アンナ・カレーニナ』や『戦争と平和』にも挑戦したものの、途中で挫折してしまいました。ヘミングウェイに至っては、まだ読みかけのまま放置です(汗)。

そういうわけで、私のおすすめはかなり偏っているかもしれませんが、A君に向けて今日はブログを書いてみますね。カジュアルな文体になっちゃいますが、私の独り言だと思って、どうぞ気楽に読んでください。

大学生におすすめの海外古典文学(三宅の独断で選ぶ10選・年代順)

1)1349年『デカメロン』 ボッカッチョ

著:ボッカッチョ, 翻訳:平川祐弘
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A君はカミュを読んだことがあると言いましたよね。それはもしかしたら『ペスト』を読んだのかもしれませんね。いま、covid-19が世界中に蔓延して街はマスク姿だらけ、大学はいまだにオンラインでしか授業に参加できないなんてね。
さて。
おすすめする1冊目の『デカメロン』も、実はペストが流行した時の話なんです。古典文学の最高傑作と言われているので読んでみて損はないと思う。ショートストーリーの集合体なので(タイトルはギリシャ語でデカ(10)メロン(物語)という意味)読みやすいと思いますよ。

本の内容はこう。
ペストが流行して世界中に死の影が蔓延している中、感染を避けるため郊外の別荘に集まりステイホームしている中流階級の男女10人。まぁとにかく外出できず暇だから順番に面白い話でもしましょうよ!って1日10個×10日間(つまり100個)のストーリーを披露する、という構成になっている。

ゴシップ記事みたいなショートストーリーが連なる『デカメロン』の、いったいこれの何が「古典文学の最高傑作なんだ?!」っていうと、物語を構成するっていう根本的な概念がうまれたのが、670年も前のイタリア人が書いた、この本だよ。意味があってこの順番で書かれている、っていうのを読み取れたら面白いと思うのです。

2)1808年『ファウスト』 ゲーテ


ゲーテを読んでる、なんて口にしたらなんかめんどくさいやつみたいに思われるのかしら。今風に言うならこうかな、おまえ意識高い系かよ!ってね。だってドイツの詩人が書いた小説なんか、メルヘンチックに決まってるし、令和時代でそんな本読んでる奴なんか、たぶん変態。(いい意味で)

【ゲーテ 名言 格言】ってググれば山ほど出てくるから、なんかうまいこというドヤ顔のおじさんをイメージしちゃうけど、実は詩人・小説家でもあると同時に自然科学者の顔も持っていて『色彩論』なんてものも発表しています。カラーコーディネーターやインテリアコーディネーター(わたしたち)からしたらゲーテは、色彩論の人だ!という印象が強かったりするんですよ。

そのゲーテが20代から83歳で亡くなるまでの60年もかけて書き上げたのがこの『ファウスト』
ほとんど生涯をかけたライフワーク的な大作なのです。

主人公の老学者ファウストは、悪魔と取引をして若返りの秘薬を手に入れ少女と恋に落ちる・・・が、さて・・・人間の真の生き方とは!
そんなあらすじ。戯曲スタイル・・・つまり、演劇のセリフとして書かれている本だからちょっとクセがあります、めちゃくちゃ妄想力を働かせながら(監督になって舞台を演出している気分で)(あるいは役者になった気分で)じっくり読み込んでみるといいと思う。

3)1816年『アドルフ』 コンスタン

著:バンジャマン コンスタン, 原名:Constant,Benjamin, 翻訳:佳子, 中村
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コンスタンは、小説家でもあり政治家で、奴隷売買反対運動なんかをやっていた人。亡くなった際には国葬されたそうだから、相当、民衆に人気があったんだろうね。『アドルフ』は心理主義小説と呼ばれている。A君が読んだことがあると言っていたスタンダールの『赤と黒』も心理小説だよね!

主人公は22歳のアドルフという青年。物語の軸は恋愛(不倫なんだけどすっごい好きになっちゃって、でもいざ自分の愛人になったら、あれこれ重すぎてメンヘラうぜー、やっぱこいつ無理ー、っていう、簡単に言うとそんな話)なんだけれど登場人物の心理がこと精密に描かれている表現を味わう本。

特別に流行ったこともないけれど、細々といつも誰かには読まれている類の、いっけんパっとしない小説だがきっと何百年と読まれる、そういうジャンル。この先もこの本がブームになることはないと思うけど、ゲーテとスタンダールは彼を称賛していたし日本では坂口安吾と三島由紀夫が好んで読んでいたんだって。ゆっくりと味わいながら読むと良い感じだよ。

4)1860年『はつ恋』ツルゲーネフ

著:ツルゲーネフ, 翻訳:清, 神西
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タイトルがちょっとくすぐったくて手を伸ばしづらいかもしれない。『はつ恋』という本のページをめくっているなんてなんだか恥ずかしい、ってね。

ドストエフスキー、トルストイと並んでツルゲーネフはロシア文学を代表する文豪。その本人が一番自分で気に入っている作品が『はつ恋』だと言っていたそうだからここはぜひ読んでみてはどうでしょう。

内容はこう。
40代の中年のおじさん3人が、酒場で「なぁ、おまえらの初恋の話を聞かせろよ」って雰囲気になる。
一人は「いやー、俺の初恋の話なんてクソつまんないよ、だって相手は、かみさんだからなぁ」という。
もう一人の友人も「俺は初恋とか覚えてねーし、記憶ねーし」という。となると、残されたウラジーミルがおのずと話さざるを得ない空気・・・。「ちょちょちょ、待って。僕は話下手だから今日は遠慮させてくれ。ちゃんと紙に書いてくるから!」
そういって2週間後に再び集まった3人のおじさん。ウラジーミルはおもむろに手帳を開きながら(本当に紙に書いたんだね!)話し始めるのです。
「そのころわたしは16歳だった」と。

つまり、物語としてはおじさんの青春恋愛回想録。
1860年にかかれたものがいまだに読み継がれている。恋愛ってどうやら世界共通、時代を超えて普遍的な共感ポイントや機微がきっとあるんだと思う。
10代で読めば10代なりの感想、20代で読んだ感想、40代、50代・・・きっとこの本は読む年代によって感じ方が変わると思うから定期的に読むといいと思う。1度でも恋をしたことがあるのなら。

5)1866年『罪と罰』 ドストエフスキー

著:ドストエフスキー, 翻訳:亀山 郁夫
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さっきも書いたけれど、ドストエフスキー、トルストイ、ツルゲーネフが、ロシアの3大文豪と言われています。
ぜひ『罪と罰』をおすすめしようと思うのですが、しかしかなり気合いをいれてページをめくる必要があるんです。1ページを読み進むのがこれほど時間がかかるのか!と驚くほど読みにくい。もしかしたら挫折するかもしれない。

主人公の大学生、ラスコーリニコフは殺人を犯す。ロシアの貧困、格差社会への怒り、自分は特別という優位意識、宗教的あるいは哲学的な問いかけやらと、テーマは重い。読み終えたら疲労感があると思うけれど達成感も半端ないと思うよ。

ちなみに『罪と罰』もしも途中で挫折したら代わりにこの動画をどうぞ。オリラジの中田あっちゃんのyoutubeなんだけれどめちゃくちゃ面白いし、1本の映画を見たかのような(?)スリリングな説明。そしてとてもわかりやすい。本当、天才。

6)1886年『ジキル博士とハイド氏』 スティーブンソン

著:R.L. スティーヴンスン, 著:R.L. Stevenson, 著:Robert Louis Stevenson, 翻訳:海保 眞夫
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すごく有名だからすでに読んでいるかもしれないけれど、19世紀イギリスの古典文学で外せない作品なのでおすすめにいれさせてもらいました。知ってるようで知らなかったら一度読んでおくと素敵です。
2重人格、多重人格の話なんだなということはわかると思う。明と暗、建前と欲望、モラル、良識・・・。
少ないページ数だから眠りにつく前の1冊におすすめ。

7)1915年『変身』 カフカ

KADOKAWA
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カフカの小説は、何を読んでもいいと思うんだけれどポピュラーに『変身』をおすすめしたいなと思います。
ただただ不条理、ただただ「なんでだよ!」っていう設定を受け入れて読むのだ。朝起きたらいきなり自分が等身大の変な虫になってるというところから話が始まるからね。え?なんで?は、ナシだ。
毒虫を「むかで」と想像する人もいれば「ゴキブリ」や「カナブン」を想像する人もいて、それぞれの妄想で読み進めればいいと思うんだけれど、まぁとにかく、そういう、どうにもならない理不尽な境遇に置かれて、もう、がっかりするくらい救われないエンドロール。

理不尽、怒り、切なさ、絶望、なんやらかんやらともやもやとした感情に包まれて、読み終わってから、頭がボーーーーッと・・・そこでしばらく、いろんなことを感じたまま分析してみたらいいと思う。
この本はなにを伝えようとしてるんだろう!っていろんな解釈が出来るかもしれません。

8)1919年『月と6ペンス』 モーム

著:モーム, 翻訳:土屋 政雄
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この物語は、画家のゴーギャンがモデルになっています。ストーリーテラーとしてすぐれた作品だからおすすめです。

ところで、海外文学を原文ではなく訳書で読む限り、訳者のクセが大いに作品の良しあしに影響してしまうのは仕方がない。『月と6ペンス』も他の作品同様、複数、あるいは時代を超えて翻訳する人がありどれを読んだかで印象も違ってくるはず。もし特別な理由や思い入れなどがないようであればとりあえず一番新しい訳者で読むのがいいかもしれません。今の自分たちの言葉に一番近いはずだから。

例えば、おなじ箇所を3人の訳者で比較してみますと・・・

①行方昭夫訳
ダイニングルームはあのころ流行った渋い趣味のもので、とても地味だった。うっそうと茂る木々の間を白うさぎが跳ねまわる図柄の緑色のじゅうたんは、ウィリアムモリスを感じさせる。当時のロンドンには、これとまったくのダイニングルームが5百はあったに違いない。清楚で、趣きがあり、それでいてどこか退屈だった。


②中野好夫訳
食堂も、そのころの好みから言えば、いい趣味だった。樹間に戯れる白いウサギの群れを模様にした緑のじゅうたんは、
いわゆるウィリアムモリス趣味の影響を思わせた。そのころのロンドンには、これとそっくりの装飾をした食堂がきっと五百はあったろう。清楚で、誘致があって、それでいてひどく退屈なのだ。


③土屋政雄訳
ダイニングルームは当時流行の内装で、きわめて簡素だった。床のじゅうたんもやはり緑色で、こちらでは葉の茂る木々の間を白うさぎが跳ねていた。明らかにウィリアムモリス風だ。当時のロンドンには、これと寸分違わない内装をしたダイニングルームが五百はあっただろう。落ち着いた雰囲気で、芸術的で・・・退屈だ。

ちょっとした文章でもニュアンスの違いがでますよね。もしも気に入った海外文学に出会えたら、訳者違いで読み比べてみるといいよね。英語が得意なら原文にチャレンジ!?

9)1939年『人間の土地』 サンテグジュペリ

著:サン=テグジュペリ, 翻訳:渋谷 豊
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サンテグジュペリの書いた本でもっとも有名なのは『星の王子様』だと思うんだけれど、これは風刺のきいたファンタジーな創作童話。テーマが類似の本をげるなら例えば『100万回生きたねこ』『アンジュール』『ぼくを探しに』だったり、つまり「自分にとって大事ななにか」に気づくストーリーです。でもおすすめしたいのはそっちじゃなくて、『人間の土地』というエッセイ・随筆なの。

起承転結を楽しむ創作の物語ではないのだけれど、人生について根本的な問いが散らばっていて、いろいろ考えるきっかけになるほとんど哲学書みたいなもんだから若い脳みそのうちに読んでおくといいと思うのです。

10)1961年『フラニーとズーイ』 サリンジャー

著:サリンジャー, 翻訳:村上 春樹
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サリンジャーといえば青春小説なんだけれど、『ライ麦畑でつかまえて』のほうが有名かもしれない。
あえて『フラニーとズーイ』をおすすめするのは・・・まぁ私がちょっとだけ天邪鬼なだけです。

物語を簡単にいうと、7人兄弟の中で一番末っ子、超美人の女子大生フラニーが思春期ならではの不安定な精神で宗教にはまりかけているのを兄や母親が心配して「なんとか目を覚まさせなきゃー!」ってやってる、という話。

ところで、どうにもこうにも世間のみんなが安っぽく見えることはありますか?例えば、大ヒット映画を見にいく奴を「ふん、俗っぽいやつらだな」と感じたり、今流行りのヒットチャート音楽を聴く奴を「あいつも俗っぽいな」と揶揄したり。
かといって、私はみんなとは違うんだ、という姿勢でいる奴をみれば(たとえばそいつが突拍子のない放浪の旅に出ちゃったとしても)それはそれでまた「アウトロー」というジャンルにカテゴリーできる「やっぱりそれも俗っぽい」と思ったり。
そういう思春期特有の、得体の知れない苛立ち、自分以外みんな「ありきたり」にみえるうんざり感、まだ何者にもなれていない自分なのに特別でありたい感覚とか。『フラニーとズーイ』を読んでいるとそんな感情がヒリヒリと伝わってくるので、読んでみたら共感できるものがあるかもしれない。

紹介したのは村上春樹の訳本なんだけれど、村上春樹が苦手だったら、読みづらくてしょうがないかもしれません。
だってね「兄はハンサムだ」ということがいいたい描写がこれだよ。

「目の青い、ユダヤ・アイルランド系のモヒカン族の斥候(せっこう)で、モンテカルロのルーレット台の上で、あなたの腕に抱かれて死んだ」と書いておいてほしい。(と思うくらい彼はハンサムです)

…って。言い方が遠回りすぎて、難解なのかただの駄文なのかわけわからん感じ。

「ズーイは俳優だ」と言えば済むところも「職業的に言えばズーイは俳優であり、・・・・・・」なんちゃらかんちゃらと続く表現。一事が万事、そんな調子で小説は進むんだけれど、サリンジャーが悪いのか村上春樹が悪いのかあるいはその両方かもしれないけれど、おしゃれな文章だなぁと思ってもいいし、こいつら厨二病かよと酷評してもいいし(笑)
それはもうどちらでも、感じるままに読むのがいいと思います。

というわけで以上で10個です!
古典文学、というカテゴリーが、いったい何年前までを示しているのかというと
日本文学でいえば江戸時代ぐらいまでのものを「古典」と呼ぶらしいので(それ以降は近代文学と呼ぶ)、それに習えば海外作品の古典も1867年くらいまでと考えたらいま紹介した本は、ドストエフスキー以降は「古典」ではない、ということになると思いますが・・まぁ、2020年からさかのぼって、80年以上たってれば古典っていってもいいじゃん(インテリアでも、80年以上たてばアンティークって呼べるので)と、勝手にきめて、こんなラインナップになりました。

こんな感じでどうでしょう?A君、これをきっかけに興味のある作品が見つかるといいですね。古典文学って、少し敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、一度読み始めるとどんどん引き込まれるものもたくさんあります。気楽に楽しんでみてください!

また、何か質問があればいつでもどうぞ。次こそはインテリアや建築の質問かも?(笑)


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