【日本の伝統を繋ぐリノベーションとは?】デザインフォーラムを受講して気づく、デザイナーの課題

みなさんこんにちは。
インテリアコーディネーターの三宅利佳です。
インテリアコーディネートとかインテリアデザインと呼んでいる道を私なりに進んでいるのだけれど、この道のはるか先のほうに背中が見える人がいる。その人は、私からあまりにも遠すぎて手は届かない。
でも、叫んだら・・・・そう、声ぐらいは届くかもしれないな。
そう思って、今日のブログを書きます。


澤山乃莉子さん
ロンドンと日本で活躍されている現役のインテリアデザイナーさんだ。
澤山さんについて詳しくはこちらを

素晴らしいインテリアデザイナーは世にたくさんいる。圧倒的な実績、輝かしい経歴、抱えている案件はラグジュアリーなクライアントばかり、と。BIID(英国インテリアデザイン協会)のメンバーは全員、そんなひとたちだらけだろう。
そして、そのトップを爆走しているのが・・・私が尊敬し敬愛してやまない澤山さんなのだ。


澤山さんのいるBIID(英国インテリアデザイン協会)が大阪でフォーラムを開催すると聞き、のこのこ出かけてきた。会場で何人か知り合いに会ったが皆、口をそろえてこう聞いてくる。

あらっ、利佳さんじゃないですか!関西でお仕事があったついでですか?え?まさかこのためにわざわざ?

ええ。わざわざこのために大阪に行く私なのである。


フォーラムでいただいた気づきを、ダイジェスト版で書き記しておく。自分のモチベーションをあげるために。

建築は記憶のよすがである

宮部先生の講演


建築学部の学生だったころ、「古い建物をリノベする際は新旧の対比がつくように」と教わってきた。古い部分と新しい部分は明確に切り分けられるほうがいいのだと。その建築哲学がしっかり頭にインプットされ、卒業した。

元々の古い建物に、とってつけたようなデザインと新建材で増築をした建築はいくつもある。(そういって、有名建築家が手がけた具体例をみせてくれたがここでは控えておこう)
だってこれが正解だとみんな大学で習ってきたのだ。

ある年、母校である東京大学の構内校舎を増築するプロジェクトに参加した。歴史ある建物のまわりに新しいビルを建てたのだ・・・完成した自らの仕事を俯瞰して、ふと疑問がわいたという。あれ?本当にこれでいいんだっけ?と。
こんな景観にしちゃってよかったんだっけ、と。

ポルトガルに移住し、ヨーロッパでの仕事が増えた。古い建物がたくさんあるし、文化財を修復するそんな仕事を見る機会も多く経験した。明らかに日本のそれと違う哲学を感じ、ますます疑問を抱くようになった。

そういった経験から得た「古いものと新しいものは、対比じゃなくて調和させるべきではないか」という考えのもと、宮部先生は建築のリノベや、場所の記憶を伝える意味についてお話を聞かせてくれた。

建築というものは、街の記憶を引き継ぐものだ。記憶をリレーするのだ。日本ではどうしてもリノベっていうと「リセットする」という発想でごっそり作り替えちゃうような感じになるのだけれど、景観を変えるということはこれまで引き継いできた街のアイデンティティを失うということにほかならない。オリジナルの姿を保つことを前提とし、多世代が共有する分脈を守る。時の経過は素直に表し、街の個性を守り育てるのが、デザインをする人間の役目であろう。・・と。

私のようなインテリアコーディネーターは、街の景観や家の外観に思いを馳せる機会は少ないので、建築という観点からの講演は非常に興味深く、面白い。

伝統と革新・サスティナビリティ

澤山乃梨子さんの講演


イギリスでリノベーションを行う際にはさまざまな方面にお伺いをたてる必要がある。古い建物をごっそり壊して新しくしてしまう日本の感覚とは異なり、元のデザインや素材を残すことを大前提として求められるのだ。
一例をあげる。お湯が出る蛇口と、水が出る蛇口、2つのバルブをひねって湯温調整する・・・そんな古臭い水栓なんていちいちめんどくさいから、現代風のシングルレバーに取り換えればいいのにと日本人は思うが、彼らは伝統を引き継ぐほうを選ぶ。

数年前から日本に戻ってきた澤山さん。ロンドンでの経験を活かし、古民家再生リノベで新しく文化的価値をつけるキュレーションホテルのプロジェクトを進めている。伝統と革新、和と洋の融合、サスティナビリティな取り組みなど、非常に志の高いインテリア空間を作っている事例をご紹介いただき、見る写真、見る写真、その圧倒的なオーラに、見事なまでに私は敗北感にうちひしがれる。

静岡・熱海|すとうすいえん須藤水園

リノベーションで一番難しいのは?という質問に「職人さんを探すことだ」と答えた澤山さん。施工できる人がいない。でもそれはね、裏を返せば、デザイナーの責任なのよ、と耳が痛くなることをおっしゃった。

私達は、クライアントに提案する際に、タカラスタンダード(※固有の企業名を言うのははばかられるかもしれないが、あくまでも概念としてだ)のユニットバスを選んでないだろうか?システムキッチンを提案してないだろうか?と。
職人の技術を次世代につないでいけるかどうかはデザイナーの役割も大きい。
なぜ造作プランにしないの。木でカウンターを作り、陶器のボウルをはめ込み、タイルを張って、左官で仕上げていこうじゃないか。インテリアデザイナーが、デザインもしないでユニット既製品を選んではめこむだけの仕事をしていてどうするのだ、と。
澤山さんから課題を託された気がする。
しかと受け止めよう。

ろくなものを飾らない日本人

岡先生の講演


閑話休題。話題提供として皆様にご紹介します、そういって始まった岡先生の講演。1980年代には、日本の戸建住宅の約8割に「床の間」が存在したが、2008年には16%にまで落ち込んだ。畳や和室は残っていても「床の間」はどんどん消えていき、飾る場所を失った掛け軸香炉伝統工芸品が減少しているという話だ。

そこで、いったい現代の日本人は家の中のどこに何を飾っているのだろうか?そんな調査研究をし、結果を見せてくれたのだが、これが実に面白かった。いや、残念すぎたというべきだろうか。
飾る場所は、玄関や、居間、壁のくぼみ(ニッチ)などの回答が多い。さぁ、何を飾っている?

カレンダー/芳香剤/時計/神社の御札/コーヒーメーカー/ル・クルーゼの鍋!

・・・おいおいおいおい、それは飾るためのものではなくて単なる道具であり、機能面で置いてあるだけのものじゃないか。
インテリアに何かを「飾る」ことが出来ていない人のなんと多いことか。日本人は、飾ることへの関心が低く、興味があるのは「しまう(収納)」ことばかりだ。

「飾る」っていったいどういう理由があるだろうか?
まずはそう、自己表現だろう。家族がほっとする場所づくりでもある。季節感の演出だったりもする。そしてもちろん、空間のビジュアルを格上げするためでもある。

「床の間」のある部屋に通すと、そこに荷物を置く人がいることに岡先生は驚く。
「床の間」は荷物置き場ではないのだ!(客席から小さく賛同の拍手が聞こえた)

飾るってなんだろうね。アンケートをとってみた限り、一般の人って現状ろくなものを飾ってないよね。
何か大事なものを思い出させてくれるような・・・興味深いお話だった。


私の余談:

フォーラムに参加した翌日、京都の柳谷観音楊谷寺。特別公開の「上書院」を見学してきました。床の間に掛け軸と香炉・・・正しい飾り方がそこにありましたよ。

座談会

最後、4人目の片桐さんの講演(古いものを残し、次の世代へとつないでいくお話)を終え、登壇者4人+ファシリテーターの沖野さんで座談会スタート。2時間のフォーラムはあっというまに過ぎ、非常に満足度の高い時間だったなぁと思う。(片桐さんの写真が撮れてなくて、はしょってしまってごめんなさい!)

大阪の夜

BIID(英国インテリアデザイン協会)のメンバーでもないのにちゃっかり一緒に写った。懇親会にも参加させていただきありがとうございました。

澤山さんと。
宝物の一枚。

おまけ

ちなみに、澤山さんのお嬢様は、世界で活躍している歌姫リナ・サワヤマさんです。(ネクスト・レディーガガと呼ばれている。ケンブリッジ大学卒業の才女)
ロンドン旅行中にテレビをつければ、BBC放送かなんかで普通にアルバムリリースのインタビューされてた!
Spotifyで1曲、1億ダウンロード越えしてたりして、親子して大活躍、すごいよね!