豊かな京都伝統文化と英国トップデザイナーとの競演(2016.11)

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京都で開かれたシンポジウム
「豊かな京都伝統文化と英国トップデザイナーの競演」を聴講しました。

世界最高峰と称される英国インテリアデザイン協会(BIID)から5人のトップデザイナーが京都精華大学に集まり、熱く語り合うというのですからこれに行かない理由がありません。
前半は各デザイナー1人づつのプレゼンテーション、後半は特別ゲストとして招かれていたHouzzJapan代表 の加藤愛子氏や、工芸や建築を教える大学教授・日本の工芸品や商材を扱う企業のプレゼンテーション、そして締めのディスカッションという約5時間に渡る大変有意義な時間でした。

なんでシンポジウムの開催地が東京じゃなくて京都なんだよー(ちっ、遠いじゃんかー)と思っていたのですが、伝統とインテリアデザイン、あるいはイギリスと日本を考えるのに「京都」という町がキーだったようで、なるほど、これは東京じゃなくて京都でやる意味があったわけだと納得しました。

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英国のロンドンは、都市の大きさで言うと京都大阪ぐらいでしょうか。エリアごとに「アンティークならここ」とか「モダンなインテリアならこの地域」というふうに、テイストごとにお店やショールームがエリアにまとまり、非常に回りやすい街が出来ています。先日私も訪れましたチェルシーハーバーのデザインセンターは100もの企業が集まっている世界最大規模のインテリアショールームだし、ロンドンの「PIMLICO ROAD」を歩けば素晴らしいインテリアが一度に見られるので今世界で一番オススメする場所だというし、それに英国は2012年のロンドンオリンピックの影響もあり国の産業として「デザイン」が活性化され「イギリスのデザイン」そのものが輸出価値あるものとしてしっかり産業として認められていますので、いま一番デザインが熱い国はどこかと聞かれたら迷わず英国と言えるのではないでしょうか。

そんな英国で活躍するトップデザイナー。
彼らのプレゼンテーションは大変素晴らしく、非常に内容の濃いものでした。終始英語ですから通訳を通しての理解になったのと、私のとらえ方やフィルターを通してになりますので意訳された部分もあると思いますが、私なりに大変刺激を受けました。

インテリア業界全体が~とか、伝統を次世代に受け継ぐには~とか、大局的なことは省きます。シンポジウムのテーマは、自国の伝統文化をインテリアに取り入れていこうというものでしたが、私はあくまでも1コーディネーターとしてシンプルに、彼らの仕事の進めかたやコーディネーションのテクニックという観点で、感じたことを記しておこうと思います。

プレゼンテーションの順番どおりに紹介していきます。

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BIID
ダニエル ホープウッド氏。

「今ここにいる会場の皆さんにクエスチョン、ちょっと教えてください。インテリアのデザインやコーディネーションに携わっている人、自分はインテリアデザイナーだという人はどれくらいいますか?挙手してください」そんな質問を唐突に投げかけてきたダニエルさん。わさわさっとあちこちで手があがり、私もひょろんと右手をあげました。

「ワオ。それはよかった。たくさんの「同士」がいるようなので僕はここで大きな声でこれを言うことが出来ます。インテリアデザイナーという職業はこの世で一番素晴らしい職業だ!・・・ってね。みんなもそうでしょう?さて。私の名前はダニエルと言います」

観客を惹きつけるようにスタートしたプレゼンテーション。手掛けた施工事例の写真をスライドで上映しながら、彼は、インテリアに対する考え方を語ってくれました。

1枚の施工写真。あるホテルの客室で、素晴らしくラグジュアリーに整えられた完璧な、部屋。見ていてため息が出るような美しい空間です。

「英国ではベッドルームにこそ個性と豪華さが一番求められます、だからこのホテルの仕事を引き受けたときも最高にラグジュアリーなデザインにして、そして結果あちこちに評価もされました。超高級ホテルに泊まる人にとってそこはつまり「自分が主役」になるわけだから、宿泊者が主役になれるような舞台を作ってあげるデザインになります。片開きではなくてダブルのドアを採用し、バーンと両手で開けて部屋に入るというドラマチックな演出、その先に広がるゴージャスな空間、照明の使い方、家具の置き方、大きな大きな丸いミラー・・・すべては舞台だと思って深い世界を広げてあげるのです。でも、実は今こうやって見返すと、この仕事は「あまり面白くなかったな」と思えるんだよ。どうしてだと思いますか?ホテルの仕事は「不特定多数の誰か」にむけてデザインしなきゃいけない。顔が見えない人のためにデザインをするのは少しつまらないよね。僕は今はそう感じているんです、実はね。

ところで。インテリアデザイナーにとって一番重要なことは「聞く事」ヒヤリング力です。

ライフスタイル、求めていること、クライアントが持つバックボーン。それらをどれだけ聞き出せるか。聞く力。インテリアデザイナーの仕事はそれが最も重要なことです。以前こんな面白いオーダーをもらったことがあります。「私がかっこよく見えるデザインにしてくれ」ってね。ソファに座った時、キッチンで料理をしている時、その自分の姿が「かっこよく見える」そんな部屋が欲しい、と。まさにこれも舞台づくりといえるよね。それが不特定多数を相手にするホテルではなくて、個人の住宅として手掛けることが出来た。クライアントのライフスタイル、趣味趣向をたくさんヒヤリングをしてそして、クライアントのアイデンティティと僕のアイデンティティがまじりあって、唯一無二のインテリアデザインが出来ました。あれはとっても楽しい仕事でした。

英国で、男性がモテる条件ってなんだと思いますか?日本の皆さんはご存知ですか?そう、フェラーリに乗っている?ランボルギーニを持っている?違いますね。ブランド物を身に着けていること?それも違います。英国ではこれ見よがしなブランド品はその人を下品に見せ嘲笑されるだけです。そう、答えは家です。ロンドンでは「いい家、いいインテリア」に住んでいることが最もモテるのです。いいインテリアは何かというと、ロンドンでは綺麗に整える事ではありません。様々なものを持ち寄る事、ブレンドする技術とスキルが必要とされます。例えば1960年代のアンティークチェアにパンクロックなファブリックを貼り込んだり、ってね。そういうことです。築200年300年という歴史ある建物を改築しながら僕たちは住んでいます。エクレクティク(折衷)というのは今世界中で流行のスタイルではあるけれど、まさに英国も伝統と現代のあれやこれやをブレンドスタイルする技術がデザイナーに求められます。

僕はテクニックとして、インテリアデザインには「色がとても重要」だと思います。だから必ず「ストロングカラー」と言ってインパクトのある色を取り入れインプレッションを与えるようにデザインをしています」

スライドで見た施工事例はどれも確かにインパクトの強い印象に残る色使いのものが多くありました。

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BIID

スージー ロムフォルド氏。

彼女は建築を含むチームを率いて住宅並びに商業施設のデベロップメントを数多く手掛けているそうです。小柄な女性、その可愛らしい印象からはちょっと想像できないような「でかい仕事」ばかりでクラクラしました。

「個人のクライアントではなくデベロッパーのお仕事をするならばCGパースは必須です。私のオフィスでは、私がクライアントから依頼をもらい先頭に立ち、バックグラウンドにCG担当、建築担当、積算担当、施工担当というようにチームを率いて一体になって仕事を進めています。チームで動くということはとても重要です。インテリアデザイナーはそのとりまとめ役として先頭にいるのがうまくいくのです」

スージーさんの仕事は、築300年するようなやはり古い建物をまかされ、高価に売却されるように付加価値をつけて改築したり、大規模住宅開発に携わるようなことだ。

「少しでも物件の付加価値をあげ高く売れるようにするため、(それが不要だとしても)バスルームにシャワーを2人分用意したり洗面を2ボウルにしたりと、プラスアルファの設備を多く取り入れたりもします。けれど、古い状態の例えばプラスター壁はそのまま残したり、印象的なアーチ壁の形状はいじらなかったり。伝統や様式、歴史の部分はきちんと残しています。そういったことが評価されて多くの依頼を頂いています」

「私のオフィスの方針は「自分たちのデザイン」というものを持たないようにしています。あくまでもクライアント至上主義です。クライアントのニーズに応えることを第一に考えています」

たくさんのスライドで見せてくれたスージーさんの施工事例はどれも上品で微妙なニュアンスの色使い、しなやかでエレガント、建築とインテリアの繊細なバランス、ディテイルのこだわりがみてとれました。●●で売ってるソファ、■■の品番の照明・・・ではなくて、彼女がデザインする空間には基本的に照明も家具も壁紙も・・・すべて彼女のオリジナルで構成されているようでした。オリジナリティがありながら、多くの人に支持されるであろうコンテンポラリーなスタイルで、そりゃたくさん依頼が来るだろうなと納得しました。

 

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BIID

グレゴリー フィリップ氏。

ものすごい数の受賞歴を持つ建築家。英国及び世界の建築、インテリアの賞を総なめにしているという。

「私は世界中を旅するのが好きなのです。行った先々で多くのインスピレーションをもらい、それをホテルや住宅のデザインに持ち込むようにしています。ロンドンのハイスペックな住宅をデザインすることはそのままホテルのインテリアづくりに応用することが出来ますので、私はどちらも分け隔てなく手掛けています。私は建築家でもありますから、インテリアは内部空間だけではなくて、ランドスケープ、外構といった外からのアプローチをまずは大切にしてデザインしています」

施工事例写真や図面を見ながらプランニングの説明が始まります。

「回遊性のある景色。インテリアとランドスケープの連続性。私は外と中をつなげた空間を作りたいと思います。例えばこの事例もそうでした。外の空間を中に取り入れる、ガラス張りにしたり、という視覚的なことだけではありません。建築というのは人が出たり入ったり動きがあるわけですからその動きの中で、中と外を繋げていきたいのです。長い長い動線を確保して、わーっと伸びる廊下というようなキャッチーなデザインを取り入れる。ふと曲ると一瞬ちいさな空間に出くわす、そしてその先の扉を開けるとそこにはまたぐわーっと広がる庭につながる。ドラマチックなシーンの展開の仕掛けをするんです」

「廊下など、長い動線を確保出来るようなデザインをよくします。キャッチーでドラマチックな空間になります。ごめんなさい建築のほうの話が長引いてしまいました、やっとインテリアのほうに移ります!」

スライドが内部空間の写真に変わりました。

「インテリアデザインにおいても「シーンの転換」という視点を意識しています。ここにリビングがある、カジュアルでフレンドリーに過ごせる空間。そしてその先にもう一つ部屋があるとします、扉で仕切られてはいなくてリビングと同じ空間ではあるけれど、ちょっと奥に進んだような空間。私はシーンの転換をしたいと思うんです。ファブリックにシルクを使うようにしたり、アートの質感をあげたり光のスリットを多用してみたりというふうに。ラグジュアリーをグレードアップさせ同じ空間の中で変化をつけるようにしているのです」

わぉ。前半に建築の話が熱くなり、ここでタイムオーバー。たくさんご用意いただいていたインテリア施工例写真の多くを、ゆっくり拝見できずに途中で終わってしまい残念!

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BIID

スティーブン ライアン氏。

36年の経験を積んできたデザイナーのスティーブンさん。「デザイナーが目標とするデザイナー」と言われている彼はアートディーラーとしての顔を持ち、その特性が感じられる素晴らしいコーディネーションの数々で多くのデザイン関係の賞を総なめです。

「日本には縁があって何度となく訪れています。東京や神戸のオークラホテルは900の客室やスイートルームも担当しましたし、ホテルインテリアはこれまでに何百室と手掛けてきました。もちろん築150年というような住宅の改築デザインもやります、アパートメントも手掛けます」

「インテリアデザインにおいて、ファブリックを大きく使うことでラグジュアリー感を演出することが出来ますから、ファブリックの使い方はとても気を使います。家具はほとんど自分でデザインしますので既製品はあまり使いません。この施工事例をみてください、いっけんトラディッショナルなスタイルに見えますけれどカーテンを束ねているタッセル・・・これはチェーンでつくりました。お分かりになりますか?チェーン。そう、このインテリアはボンテージなんです(笑)ちょっと大人な、グラマーね」

手掛けてきた施工事例はどれもこれもリッチでグラマラスで最高級。アートディーラーとしての彼だからこそ、装飾芸術を真に理解でき、超一流にふさわしい風格を醸し出した空間がつくれるのだと言います。すべてが素晴らしく、施工写真に見とれるばかりでした。決してインパクトだけではなく、クラシカルなバックボーンを押さえてこそのコンテンポラリーの掛け合わせが成功しているという非常に深みのある美の世界。パンフレットのこの画像は、スティーブンさんの自宅リビングで撮った写真なのだそうです。色!調度品!アート!アンティーク品!これだけのものがぶつかり合いながらなんてダイナミックに整えられたインテリアでしょう!見た人の印象に深く刻まれるデザイン。こういう人をトップデザイナーというのだなぁと本当に思いました。

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BIID

そして最後に、日本人の澤山乃莉子さん。

澤山さんは英国インテリアデザイナー協会(BIID)の、日本人メンバーの会の代表を務めていらして、ロンドンを拠点にご活躍のトップデザイナーです。日本を離れて外からみたからこそ気づいた「日本」というものを、インテリアデザインの中に取り入れ、実績とコーディネーション能力が英国で認められてトップの座に君臨している方。

「私もホテルのインテリアを手掛けたりいたしますがホテルは基本的に洋の空間です。洋の空間に日本人のアイデンティティである和を表現しようとするのは難しいことです。いわゆる「和モダン」という言葉で片付けられるようなものになったり、「民芸」というこてこての和になってしまうことが往々にしてあると思います。洋の中に和のエレメントをどう取り入れていくか、うまくブレンドしていきたいなぁと思うわけです。お見せしているこの写真はお蔭様で賞を頂いた事例ですが、日本の伝統工芸のものをたくさん取り入れ、そして洋の英国インテリアと調和させた成功例だと評価をいただくことが出来ました。西陣織の帯をテーブルセッティングやクッションなどのインテリアアクセサリーに取り入れたり、時代箪笥の取っ手金物をオーダー家具のデザインに取り入れたり 仏具や、輪島漆や、赤絵の染付食器や・・・たくさんの素晴らしい日本の技術伝統文化を、こうやって日常のインテリアとして多用させました。」

「インテリアデザインをしていくうえで、工期、お金、行き過ぎたデザインへの抵抗、いろいろなハードルはあると思いますが、ロンドンはそれらのブレーキがかかりにくく、デザインに対しての許容範囲が広いという土壌があるように思います。クライアントの意識が高いのです。私は日本人ですから、日本の文化や雅(みやび)とワビサビの世界をもっともっと洋の空間にブレンドさせて素晴らしい日本の伝統工芸の技術を世界に広めたいなーって思っています」

今回のこのシンポジウムは澤山さんが代表を務める日本人メンバーの会が企画したものです。プレゼンテーションから最後のディスカッションまで、澤山さんが通訳をこなし、英国と日本の橋渡しのようなお役目をされていました。

 

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以上5名のデザイナーの施工事例や考え方を見せていただきました。

一流の仕事ぶりに刺激受けまくりました。インテリアコーディネーターという言い方は日本でしか通用しないので、私が英語で自己紹介をするときは「インテリアデザイナー」か「インテリアデコレーター」なのですが、同じインテリアデザイナーだなんて名乗るのはとてもじゃないけれど恥ずかしすぎる、そんな気持ちになりました。ある種の衝撃を受けました。

インテリアデザイナー/インテリアコーディネーターに求められているものが、英国と日本ではあまりにも違いすぎる。

それは恐らく、私たち提案する側の責任というよりは、クライアント側の意識、デザインに対する価値観、成熟度が、日本と英国ではたぶん圧倒的に違いすぎるのだ。欧州では、医者・弁護士・インテリアデザイナーが同じくらいの地位と報酬を得ているのに対し、日本での私たちはそんないいポジションには・・・・いないよね〰(残念)

 

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日本では、商業系と住宅系で職域が分かれていることが多いのです。住宅のインテリアデザインをする人は住宅専門だし(私はこっちだ)、商業系やホテルをやる人はそっちがメインというふうに。ですが英国の場合は、一人のデザイナーが商業系も住宅系も分け隔てなく手掛けるのが普通だといいます。
ロンドンはとても「ホテル」が面白くて、世界中を見渡してもこんなに刺激的な街はないだろうといいます。ロンドンのホテルデザインには2つの潮流がありまして、1つは老舗ホテルや国際的高級ホテルチェーンに代表されるエスタブリッシュな空間で、これらの多くは大規模なデザインオフィスの総合力によって生み出されています。
そしてもう1つの潮流が、デザイナーが冠となり個性が目立つデザイナー系ホテルです。私が先日宿泊したキットケンプデザインのこちらのホテルもその代表といえるでしょう。比較的コンパクトな客室数ながらロンドンのホテル市場を活性化するほどの原動力となりそのホテルに泊まること自体が目的となりえるものです。この流れはパリやNYなどにも影響を及ぼしています。英国インテリアデザイナー協会(BIID)のメンバーは、このどちらの潮流にも乗れる、両者を兼ね備えたすごい集団でした。

 

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英国と日本の、お国柄の違いはもちろんあります。建物も違う、気候も違う、習慣も違う。ですから、英国のデザインがそのまんま日本にフィットするかと言えば全部が全部受け入れられることはないかもしれません。国民性の違いもあるでしょう。澤山さんが面白い例えでこんなふうにおっしゃいました。日本の台所キッチンは大抵シングルレバー水栓で、ハンドル一つでお湯が調節できるのに、
BIID
イギリスはお湯の蛇口と水の蛇口2つついてるのよね~、と。

そういえば確かに先日ロンドン行ったときも、さすがに蛇口は1つでしたけれど水栓はどのホテルもこんな感じでHOTとCOLDがそれぞれついていて

BIID

BIID
水とお湯をブレンドして温度を調整しなきゃいけなくて「めんどくさいな、これー」って毎回思っていました、私。

・・・ていうね、これはほんの一例ですけれど、たとえば「利便性」と「伝統」をどういうバランスで取り入れるのかというディスカッションがありました。
印象として日本人は「利便性」をとる比率が高く、英国は「伝統」を重んじる比率が高いように感じるのです。
英国がうまいこと伝統をインテリアに残せているのはなぜだ?というシンプルな質問が出たのですがそれは日本人の発想だったようで、英国デザイナーたちに「いったい何を聞きたいのか質問の意図がわからない。もう一度いってくれ」と言われてやりとりする場面がありました。つまり、伝統を残すということはあまりにも当たり前すぎて彼らはそんなこと意識して考えたことがないのだというのです。

父、母、じーちゃんばーちゃん、先祖・・・代々使ってきた家、部屋、モノ、それを引き継いで使うことに何か「意味」が必要なのかい?・・・てね。

トラディッショナル(伝統)と現代がうまくミックスしている英国。歴史様式の上に成り立っていることが大前提にあるのが欧州のインテリア空間。
それに対し、トラディッショナルがうまく受け継がれているとは言いにくい日本のインテリア。畳や障子をなくし洋室化されたものの、ベースになる歴史様式がないから「●●風」という流行りのインテリアテイストに流される。そしてそれは「なんちゃって」な感じだし英国インテリアの世界から見ればある種の「軽さ」しか感じられないかもしれない。

でも、実際それが「日本という国なのだ」といえるような気もします。

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国の様式や歴史がドーノコーノというと話が大きくて、わかりにくくなるかもしれませんね。自分の家のインテリアを考えるのに「日本の伝統が~」なんて言われてもねぇ、と一般の人なら思うでしょう。
ですからもっと本質的に簡単に「自分」に置き換えてみようと思うのです。私たちは日本に生まれて日本に育っているから日本を特別意識しないままに暮らしています。
でも例えば。
あなたが東北に育った人ならば、南部鉄器の急須や津軽塗のお盆が身近にあったのではないですか。
あなたが九州の人ならば、伊万里や唐津や有田焼のお皿が日常的にあったのではないですか。

和紙や、焼き物や、織物や、家具。伝統というと「特別なもの」「美術品」「高価なもの」「ハレ」「国宝」そういうイメージを持ってしまいますがそれではせっかくの日本の素晴らしい技術や文化、工芸品は衰退していきます。日常生活の中に普通に取り入れて使っていくことが「伝統を継承しながら今を生きている」豊かなインテリアにつながっていく、一歩なのだと思います。日本人だからインテリアは和室にしよう、障子にしよう、ということではありません。自国の伝統を大切にしている英国から学ぶべきものは、アイデンティティの意識を強く持ってみようということのように思いました。

100円ショップの割れないお皿でご飯を食べてませんか?
プラスチックの「使い捨て」なモノたちばかり集めていませんか?

「あなたが育った土地の工芸品」
「あなたが心を惹かれて集めたもの」
「時代を超えて受け継がれてきたもの」

あなたの暮らす家にはいったいどれくらいありますか?

そんなことを考えると結局、インテリアデザイン、インテリアコーディネートって

「あなたのアイデンティティはなんですか」
「私というアイデンティティはなんですか」

「あなたのバックボーンにあるものはなんですか」

という問いかけに行きつくように思うのです。

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「英国のインテリアデザイナーは既製の●●風というデザインなんかしません。顧客に対して一対一で向き合って、アンデンティティを探り合うことで唯一無二のデザインが生れます」

そんな言葉が心に残ったシンポジウムでした。