厚木のカーテンショップ「+PLAN」と「透明な天井」の雑記
たぶん。
誰もがキラキラしたところにいるわけではありません。
常にスポットライトが当たっている人は実はほんの一握り、多くの人はそうではないところにいます。
でも、キラキラした場所への憧れは、多少なりとも・・・誰にでもあるでしょう?
高級レストランでの食事、
知識人、有名人、地位や名誉のある人との交流、
華やかな会合や集まりに参加したとき、
最先端のトレンドや話題のものに触れている時、
都会で過ごした体験談、
そういったことをSNSでつい話したくなるのだって、キラキラした場所への憧憬の念があるからだと思うのです。
交差する情熱、華やかで、モチベーションが高く、積極的、社交的、プラス思考、前進前進、最先端、お金持ち、偉い人・・・。
キラキラした場所への憧れ、その中に交われることの誇らしさ、あるいは羨望・・・そんな自分の感情を認めたうえで、でもやっぱりちょっとそういう世界は苦手だな・・・と思う人だっているんじゃないかなって思います。
いや。
苦手という言葉を使うのはもしかしたら自分自身に対しての単なる逃げなのかもしれません。本当はスポットライトの当たるあの場所の仲間に入りたいのにできない能力のなさ、ふがいなさ、自分の負けを直視したくなくて、苦手といって目をそらしているのだ。
例えば、それは、私のような人間。
神奈川県厚木市に「プラスプラン」というオーダーカーテンのお店があります。
オーナーの斉藤さんのブログが好きで私は実はこっそりとファンなのですが(それにしてもブログが2つに分かれているのだけれど1つに統合しちゃえばいいのになんて、私は勝手に思ってます)
事務所にふらりと遊びに来てくれた斉藤さんは、
コーヒーを飲みながら、透明な天井、なんて言葉をふとつぶやくのです。
「見えているのに。
あのキラキラした世界が、見えているのにね。
そこに行くにはどうすればいいんだろうってね。
透明な天井が、あるんですよ。
見えているんだけどね。
そこに行けるドアはどこだろう、階段はどこなんだろう。
敗北感。
そういうの、僕、あるんですよ。」
私もそうだ。
透明な天井をいつも感じている。
日々、敗北感と焦燥感、劣等感。
もうただそれだけ。
それでもお客さんのために私たちはインテリアを考えていく。
最先端のトレンドではないかもしれないけど。
華々しい高級ブランドばかりのインテリアではないけれど。
「プランと見積もりが他店と競合になってて、お客さんがうちの店の方を選んでくれたことがあるんです。
どうしてあっちではなくてこっちに決めてくれたのですかとお聞きしたら、こう言われました。
あっちのお店の人は、打合せでコストの話をするときに主人のほうしか見なかったんです。
私だって働いていて夫婦で同じように稼いで主人と折半でお金を出し合っていたのに。
お金の話をするとき主人のほうしか見てくれなかったって、だからあっちのお店はやめましたって
・・・奥さまがそういったんです。
競合に負けたその他店さんは、見積もりが安いほうに決めたんだろうなぐらいに思っているかもしれないけれど。
お客さんが実際に何かを決定するときのポイントって、
実は意外なところにあったりするんですよね・・・。
些細なことが重要である。
そのことに気づけるか気づけないか。
プランをつくるときって打合せでのお客さんとのやりとりをさかのぼってさかのぼって思い出して思い出して、紐解いていくようにして、答えを出そうと考えています。
プランが決まらないとき。
いったいどこでお客さんの要望を読み間違えたのだろうかと。
僕はどこで読み間違えたのだろうって。
さかのぼって、どこだどこだ、どこが間違っていたんだ、お客さんが本当に求めていたものはなんだったっけと汲み取る作業を繰り返すんです」
うん、私もそれ、とてもわかる。
自分のデザインを前面に押し出すことはしない。
時代の最先端トレンドを突っ走るわけでもない。
誰もがうらやむ羨望の高級物件を扱うわけでもない。
でも、
普通のお客さんが普通のカーテンを欲しいわけではないと思う。
普通のお客さんだから何もこだわりがないなんてことはないのだ。
「みんな、誰だって素敵なものを手に入れたいと思っているんですよ」
キラキラとまぶしい、インテリアのスターたちがいるあの場所に自分はいないのかもしれないけれど、自分なりの答えの出し方と、お客さまとの向き合い方が、きっとある。
斉藤さんは斉藤さんの中で何かを感じていて、私も私の中で何かを思っているのだ。
透明な天井の、上にいるあの華やかな第一線の世界に憧れを持ちながら、そうではない自分は足元の泥をじっと見るしかないのだ。
「ずいぶん長いこと・・・おじゃましました、すみません。そろそろ」と斉藤さんが言う。
お昼だったのに気が付けば夕方になりかけている。
ではもう一杯だけ、紅茶を入れますね。お帰りはそのあとで。
プランニングの手をとめて、ゆっくりおしゃべりをするだけの、たまにはこんな日があってもいいのだ。
ひとりのカーテン屋さんと、
ひとりのインテリアコーディネーターの、ある午後の話。
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